よくある誤解と正しい知識

よくある誤解や勘違いを科学の視点から分かりやすく解説しています

飛行機の速さと地球の自転は無関係

たとえば東京-シカゴ間だと、東京→シカゴが11時間半程度、シカゴ→東京は13時間程度かかります。この差は地球の自転ではなく、偏西風によるものです。

飛行機は地上にいるとき、地球の自転と一緒に動いていて、離陸した後もその運動量は残っています(慣性の法則)。人が地上でジャンプしても同じ場所に着地することからも、慣性の法則が成り立っていることが分かります。自転と反対の西向きに離陸したからといって、地面がこちらに動いてくるわけではありません。正確に言えば、地面が動いた分、こちらも同じ向きに動いていることになるので、差し引きゼロになるわけです。地面に対する航空機の速さは、地上から離陸する以上、地球の自転とは無関係なのです。

では、どうして行きと帰りで速さが違うのでしょうか。

日本やアメリカを含む中緯度帯の上空には、偏西風と呼ばれる西寄りの風(西から東に向かって吹く風)が存在します。偏西風は天気が西から東へ移り変わる原因でもあり、季節によって強さが変化したり蛇行したりします。旅客機が飛ぶ高度10km付近においては特に強くなっており、これをジェット気流と言います。

ジェット気流は風速100メートル(時速360km)に達することもあり、東回りに飛ぶときはこの風に乗っていくために速くなります。ボーイング747などのジェット機は、周りの空気に対して約900km/hで飛行するため、300km/hの追い風を受ければ地面に対して1200km/hで飛べることになります。動く歩道を人が歩くのと良く似ているでしょう。

飛行機の画面に表示される情報を見ると、速さの項目が"Ground Speed (対地速度)"となっていますが、これがもし"Air Speed (対速度)"だと、常に900km/h程度で変わらないことになります。「対地速度: 1100km/h」となっていたら、おおよそ200km/hの追い風が吹いているということです。


ちなみに旅客機は最短ルートではなく、最速ルート(あるいは最も経済的なルート)で運航されます。そのため東京-シカゴの例だと、東回りのシカゴ行きは偏西風に乗るためにやや南寄りで、西回りの東京行きは向かい風を避けるためにやや北寄りで運航されたりします。

東回りと西回りで飛行経路が違うことがある

なお、最短距離というのはメルカトル図法や上図のミラー図法で見ると直線ではないことに注意してください。(こちらの正距方位図法を参照)


結論: 飛行機の速さの違いは地球の自転ではなく偏西風の影響。


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生肉の赤い汁は血ではない

スーパーで買うような生肉のトレーには、肉から出た赤い液体がたまっていることがあります。これは血液ではなく、筋肉から出るミオグロビンを含んだ水分です。

血液の赤さはヘモグロビンによるものですが、筋肉の赤さはミオグロビンに由来します。食用とするのは主に動物の筋肉なので、食肉の赤い色もミオグロビンによるものです。

ミオグロビンはヘモグロビンと同じく酸素と結合するタンパク質ですが、酸素の運搬に関わるヘモグロビンに対して、ミオグロビンはその貯蔵に使われます。
筋肉では、ミオグロビンがヘモグロビンから酸素を受け取って、一時的に蓄えておくことで、運動時に備えているのです。

このミオグロビンが、破壊された細胞から少量流れ出てしまったのが、生肉の赤い汁というわけです。通常、市場に出回るような肉はしっかりと血抜きが施されているため、血液はほとんど残っていません。

また、肉汁も血液ではなく、肉の成分が水分や脂分とともにしみ出したものです。


結論: 生肉の赤い汁は血液ではなくミオグロビンを含んだ水分。


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季節の原因は地球と太陽の距離ではない

地球の自転軸が傾いていることで季節の変化が起きることはよく知られていると思いますが、太陽からの距離が関係しているという誤解があるようです。実際は、地面から見た太陽の高さ、つまり地面に対する太陽光の入射角が関係しています。

地軸は現在、約23.4度傾いています。そのため北半球の夏には、南半球よりも北半球のほうが太陽に近づくように思えます。実際近くはなりますが、地球と太陽の距離を考えれば近づく割合はごくわずかに過ぎません。さらに、地球の公転軌道は円に近い楕円ですが、その近日点と遠日点(太陽に最も近いときと遠いとき)の差は500万kmにもなります。これでも違いは数%に過ぎません。近日点が北半球の冬にあたることからも、太陽からの距離の違いが季節を生じているわけではないことが分かります。
遠日点のとき北半球は夏、近日点のとき北半球は冬

季節(ここでは気温の変化のみを考えます)が生じる主な原因は、太陽光の角度と日照時間です。

夏場、太陽は空に高く昇り、その光は地面に対して垂直に近い角度で地上に届きます。逆に冬は日が低く、より地面に近いところから照らされることになります。同じ量の光が、小さな面積に真上から降り注ぐ夏と、大きな面積に斜めに当たる冬とでは、(単位面積あたりの)地面が受け取る熱量が違うわけです。
同じ量の光が、夏は小さな面積に当たるので強く、冬は大きな面積に当たるので弱い

また、日照時間については、単純に日が長ければ気温も上がるというだけなので、説明は不要でしょう。他にも大気の動きや海流など、様々な要因が影響して、一年を周期とした気候の変化が生じています。


結論: 太陽からの距離ではなく、太陽の高さや日照時間の変化によって、季節が生じる。


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犬の鼻は一億倍?

犬の嗅覚は人間よりもはるかに優れていると言われています。特定の物質に限って言えば、人間の百万倍や一億倍といった数字も確かに出てきますが、どんなにおいでもというわけではありません。さらに、「一億倍」というのは、人間が感じる一億倍の強さで感じているのではありません。一億分の一のにおいまで嗅ぎ分けられるという意味です。


嗅覚に限らず、動物の感覚には閾値というものが存在します。これ以上刺激を弱くすると感じられなくなる、という限界ぎりぎりの刺激の強さのことです。たとえば空気中のアンモニアだと、人間の嗅覚では1ppm(0.0001%)程度が閾値となるようです。これは正確な値ではありませんが、仮に正確だとすれば0.9ppmでは感じられず1.0ppmになって初めて感じられることになります。

この「初めて感じられる濃度」が、犬では人間よりもはるかに薄いのです。物質によっては、人間がやっと認知できる濃度の一億分の一まで嗅ぎ分けるといいます。これが一億倍といわれる所以です。

一方で、人間にも得意なにおいがあります。一般に、硫黄化合物のにおいには、人間も敏感に反応します。この性質を利用して、メルカプタンやスルフィドなどの硫黄化合物が、ガス漏れを防ぐための都市ガスの付臭剤として使われています。ひょっとすると都市ガスのにおいに関しては、犬も人間もそこまで感知する能力に差がないかもしれません。


なお、犬が一億分の一まで感じても人間の一億倍の強さで感じるわけではない理由として、実際の臭気濃度と感覚が比例しないことが挙げられます。対数で近似できるとされ、濃度が10倍になると感覚的には2倍の強さに、100倍になってやっと3倍に感じます。つまり1億倍でも10倍に満たないことになります。さらに、きわめて強い刺激は感覚的な強度が頭打ちになることも考えられます。

補足になりますが、厳密には嗅覚の閾値には「検知閾値」と「認知閾値」の二種類があり、前者はにおいの存在を感じ始める濃度、後者はそのにおいが何かを識別できるようになる濃度です。ここでは単純化のため区別しませんでした。


結論: 犬の嗅覚は優れているが、どんなにおいでも人間の一億倍敏感なわけではなく、またにおいを一億倍の強さで感じるわけでもない。


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